を以て(をもって)

29/10/2017 06:55

→「をもって(を以て・を以って)

用例

[発表年順]
 とう/\始末困《こう》じて《かたはら》寝てゐるゆり起した夢心地先程から子供やんちやそれなだめあぐんだ良人意識してゐた夜着感ずる警鐘聞いた消防夫敏捷さを以て飛び起きた然し意識ぼんやりしてするでもなくそのまゝ暫くぢつとして坐つてゐた
 
いら/\した然し直ぐ正気返らした急に重味取り除《の》けられた感じながら立上つて小さな寝床行つた布団から半分乗り出して子供寝かしつけて居たでなければ子供承知しないのだと云ふこと簡単に告げてもぐり込んだ真夜中寒さ両方やうにしてゐた
有島武郎「An Incident」1914冒頭
 文運促進とか読書子幸福とか出版界革新とか云って円本流行謳歌して居る多いそれ等いずれも永々貧乏生活していた蚊士図らずも巨額印税あり付いたので礼心やら流行継続野望から出たソソリ文句並べるに過ぎない古来俚諺盗人《ぬすと》にも三分あるという円本流行にも何等か利益あろうそれ盗人道理同じ見る本書著者礼讃正反対たる撃退目的痛棒クラワシてやるのである論難無遠慮にして切実観察徹底的にして明敏加之《しかも》、簡潔警句犀利妙文を以て自ら誇る著者五日間住むという東北山中こもりヨリ掛て書きノメシた総マクリ毀《そし》る毀《そし》れ誉める誉めろ著者胸中タダ光風霽月出版界ため読書界ため延《ひ》いては学界ため経済界ため黙過すべからざる重大社会問題として一円本流行害毒列挙すること如しである
宮武外骨(「一円本流行害毒裏面談」1928、冒頭
灝気《こうき》薄明《うすあかり》優《やさ》しく会釈しようとして
新しく活溌《かっぱつ》に打っている
こら下界お前ゆうべ曠《むなしゅ》うしなかった
そしてけさ疲《つかれ》直って己《おれ》している
もう快楽を以て取り巻きはじめる
断えず最高存在志ざして
力強い決心働かせているなあ
                  ファウスト第二部
序曲
六月十日 にて
 御無沙汰いたしました今月初めから当地滞在しておりますからよくこんな初夏一度この高原来てみたいものだ言っていましたやっと今度その宿望かなった訣《わけ》ですまだ誰も来ていないので淋しいことはそりあ淋しいけれど毎日気持よい朝夕送っています
堀辰雄「美しい村」1933-34、冒頭
[発表年未詳・筆者生年順]
 所謂文壇復活したる蘇峰先生時務一家言引続いて世界変局及び大正政局史論出し更に去年より筆硯新たにして大正青年帝国前途なる一篇公にした始め新聞掲載されて居つたにはどれ丈け世間耳目惹いた知らない十一月初め一部纏まつた著書として公にさるる非常評判を以て全国読書界迎へられ瞬く間数十売り尽した国民新聞云つて居る蘇峰先生盛名国民新聞広告を以て驚くべき多数読者得たといふ固より怪しむ足らぬけれども而かも旬日ならずして売行数ふるといふのは兎にも角にも近来稀なるレコードである是れ丈け沢山読まれたといふ自身既に吾人をして問題たらしめる値打ある況んや蘇峰先生反動思想些《いささ》か擡げんとしつつある今日に於て少からず社会注目惹くべきに於てをや
吉野作造(1878-1933)「蘇峰先生大正青年帝国前途読む冒頭
 千九百二十三七月独逸出てから和蘭白耳義経て再びパリはひつた其処美術館見た目ぼしいもの見なほしたり見のこして置いたもの見たりするのが主たる目的だつたその二十七午後ルーヴル玄関はひつて直ちに折れ、Galerie Mollien突当つて同じ負ふ階段二階上り左折して仏蘭西初期画廊入る間もなく三階上る階段踏んでCollection Camondo到達したそれ千九百十一死んだキャモンド蒐集印象派絵画を以て有名なものであるさうしてこの蒐集には東洋芸術遺品相応にまじつてゐるのである
阿部次郎(1883-1959)「帰来冒頭