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四顧(しこ)

13/02/2012 11:41

しこ(四顧)

用例

満眼荒涼として四顧人声なく
(リットン著・織田純一郎訳「花柳春話」1878-79)
このあいびき先年仏蘭西《フランス》死去した露国では有名な小説家ツルゲーネフという端物《はもの》です今度徳富先生依頼訳してみました訳文我ながら不思議とソノ何んだこれでも原文きわめておもしろいです
九月中旬というころ一日自分さる座していたことあッた今朝から小雨降りそそぎその晴れ間にはおりおり生ま煖《あたた》かな日かげ射してまことに気まぐれな空ら合いあわあわしい白ら雲空ら一面棚引くかと思うとフトまたあちこち瞬く間雲切れしてむりに押し分けたような雲間から澄みて怜悧《さか》し気《げ》に見えるごとくに朗《ほがら》かに晴れた蒼空のぞかれた自分座して四顧してそして傾けていた木の葉頭上幽《かす》かに戦《そよ》いだその聞たばかりでも季節知られたそれ春先するおもしろそうな笑うようなさざめきでもなくゆるやかなそよぎでもなく永たらしい話し声でもなくまたおどおどしたうそさぶそうなお饒舌《しゃべ》りでもなかッたただようやく聞取れる聞取れぬほどしめやかな私語であったそよ吹く忍ぶように木末伝ッた照る曇るじめつくようす間断なく移り変ッたあるいはそこありとあるすべて一時微笑したように隈なくあかみわたッてさのみ繁くないほそぼそとした思いがけず白絹めくやさしい光沢《つや》帯び地上散り布《し》いた細かな落ち葉にわかに映じてまばゆきまでに金色《こんじき》放ち頭《かしら》かきむしッたような「パアポロトニク」(類いみごとなしかも熟《つ》えすぎた葡萄めく帯びた際限なくもつれからみして目前透かして見られた
ツルゲーネフ作・二葉亭四迷訳「あひびき」1888)
林の奥に座して四顧し、傾聴し、睇視し、黙想す
国木田独歩武蔵野」1898)
ほうっとする程長い白浜の先は、また目も届かぬ海が揺れてゐる。其波の青色の末が、自《オノ》づと伸《ノ》し上る様になつて、頭の上まで拡がつて来てゐる空 だ。其が又、ふり顧《カヘ》ると、地平をくぎる山の外線の、立ち塞つてゐる処まで続いてゐる。四顧俯仰して目に入るものは、此だけである。
折口信夫「若水の話」1929)