とうに(疾うに) 副詞

03/07/2014 23:25

[「とくに(疾くに)」の。]
アクセントうに]
早くに。ずっと前に。とっくに。отдавна, преди много време
覚悟はとうに出来ている

疾《と》う

用例

大刀《だいとう》老人亡妻三回忌までにきっと石碑立ててやろう決心したけれども痩腕《やせうで》便《たより》に、ようやく今日《こんにち》過すよりほかには、一銭貯蓄できかねてまたなったあれ命日三月八日がなと、訴えるようなして云うはあそうでしたっけ答えたぎりである。大刀老人は、とうとう先祖伝来大切な一幅売払って工面しようきめたに、どうだろう相談する恨めしいほど無雑作にそれいいでしょう賛成してくれた内務省社寺出て四十月給貰っている女房二人子供あるに、大刀老人孝養尽くすのだから骨が折れる老人いなければ大切な懸物も、とうに融通利くもの変形したはずである
夏目漱石「懸物」『永日小品』1909、冒頭)
数馬傍輩から、外記自分推してこのたび当らせたのだ聞くや否や即時に討死しよう決心したそれどうしても動かすこと出来ぬほど堅固な決心であった。外記ご恩報じさせると言ったということであるこのはからず聞いたのであるが実は聞くまでもない、外記薦めるにはそう言って薦めるにきまっているこう思う、数馬立ってもすわってもいられぬような気がする自分先代引立てこうむったには違いないしかし元服してからのち自分いわば大勢近習うち一人別に出色扱い受けていないには誰も浴しているご恩報じ自分に限ってしなくてはならぬというのはどういう意味言うまでもない自分殉死するはずであったのに殉死しなかったから命がけ場所やるというのである何時でも喜んで棄てるさきにしおくれた殉死代りに死のうとは思わない惜しまぬ自分なんで先代中陰果て惜しんだであろういわれないことである畢竟どれだけ入懇になった殉死するというはっきりしたない同じように勤めていた近習若侍うちに殉死沙汰ないので自分ながらえていた殉死してよいことなら自分よりもさきにするそれほどことにも見えているように思っていたそれにとうにするはず殉死せずにいた人間として極印打たれたのはかえすがえすも口惜しい自分すすぐこと出来ぬ汚れ受けたそれほど加えることあの外記でなくては出来まい。外記としてはさもあるべきことであるしかし殿様なぜそれお聴きいれになった。外記傷つけられたのは忍ぶこと出来よう殿様棄てられたのは忍ぶこと出来ない島原乗り入ろうとしたとき先代お呼び止めなされたそれ馬廻りものわざと先手加わるお止めなされたのであるこのたび当主怪我するなおっしゃるのはそれとは違う惜しいいたわれおっしゃるのであるそれなんのありがたかろう古い新たに鞭うたれるようなものであるただ一刻早く死にたい死んですすがれる汚れではない死にたい犬死でもよいから死にたい
森鷗外阿部一族」1913)