アルファベット順
黒い(くろい)
10/01/2012 15:31
用例
自分がこの下宿を出る二週間ほど前に、K君は蘇格蘭《スコットランド》から帰って来た。その時自分は主婦によってK君に紹介された。二人の日本人が倫敦の山の手の、とある小さな家に偶然落ち合って、しかも、まだ互に名乗り換した事がないので、身分も、素性も、経歴も分らない外国婦人の力を藉りて、どうか何分と頭を下げたのは、考えると今もって妙な気がする。その時この老令嬢は黒い服を着ていた。骨張って膏の脱けたような手を前へ出して、Kさん、これがNさんと云ったが、全く云い切らない先に、また一本の手を相手の方へ寄せて、Nさん、これがKさんと、公平に双方を等分に引き合せた。
(夏目漱石「過去の匂い」『永日小品』1909、冒頭)息が切れたから、立ち留まって仰向くと、火の粉がもう頭の上を通る。霜を置く空の澄み切って深い中に、数を尽くして飛んで来ては卒然と消えてしまう。かと思うと、すぐあとから鮮なやつが、一面に吹かれながら、追《おっ》かけながら、ちらちらしながら、熾《さかん》にあらわれる。そうして不意に消えて行く。その飛んでくる方角を見ると、大きな噴水を集めたように、根が一本になって、隙間なく寒い空を染めている。二三間先に大きな寺がある。長い石段の途中に太い樅が静かな枝を夜《よ》に張って、土手から高く聳えている。火はその後《うしろ》から起る。黒い幹と動かぬ枝をことさらに残して、余る所は真赤である。火元はこの高い土手の上に違《ちがい》ない。もう一町ほど行って左へ坂を上《あが》れば、現場へ出られる。
(夏目漱石「火事」『永日小品』1909、冒頭)
南向きの部屋であった。明かるい方を背中にした三十人ばかりの小供が黒い頭を揃えて、塗板《ぬりばん》を眺めていると、廊下から先生が這入って来た。先生は背の低い、眼の大きい、瘠せた男で、顎から頬へ掛けて、髯が爺汚《じじむさ》く生えかかっていた。そうしてそのざらざらした顎の触《さわ》る着物の襟が薄黒く垢附《あかづ》いて見えた。この着物と、この髯の不精に延びるのと、それから、かつて小言を云った事がないのとで、先生はみなから馬鹿にされていた。
(夏目漱石「紀元節」『永日小品』1909、冒頭)
クレイグ先生は燕のように四階の上に巣をくっている。舗石《しきいし》の端に立って見上げたって、窓さえ見えない。下からだんだんと昇って行くと、股《もも》の所が少し痛くなる時分に、ようやく先生の門前に出る。門と申しても、扉や屋根のある次第ではない。幅三尺足らずの黒い戸に真鍮の敲子《ノッカー》がぶら下がっているだけである。しばらく門前で休息して、この敲子の下端をこつこつと戸板へぶつけると、内から開けてくれる。Учителят Крейг, подобно на лястовичка, е свил гнезденцето си горе на четвъртия етаж. И застанал на крайчеца на каменната настилка, като погледна нагоре, не се вижда дори и прозорецът. От долу тръгвам постепенно да се изкачвам и тъкмо, когато започнат да ме наболяват бедрата, най-сетне стигам пред учителската порта. Порта, макар да казвам, не е като да има покрив и разтварящи се врати. Просто една черна врата с ширина няма и метър, на която виси закачено месингово чукало. Отдъхвам за кратко пред нея и като почукам, удряйки долния край на въпросното чукало в вратата, отвътре ми отварят.
(夏目漱石「クレイグ先生」『永日小品』1909、冒頭)
南向きの部屋であった。明かるい方を背中にした三十人ばかりの小供が黒い頭を揃えて、塗板《ぬりばん》を眺めていると、廊下から先生が這入って来た。先生は背の低い、眼の大きい、瘠せた男で、顎から頬へ掛けて、髯が爺汚《じじむさ》く生えかかっていた。そうしてそのざらざらした顎の触《さわ》る着物の襟が薄黒く垢附《あかづ》いて見えた。この着物と、この髯の不精に延びるのと、それから、かつて小言を云った事がないのとで、先生はみなから馬鹿にされていた。
(夏目漱石「紀元節」『永日小品』1909、冒頭)
クレイグ先生は燕のように四階の上に巣をくっている。舗石《しきいし》の端に立って見上げたって、窓さえ見えない。下からだんだんと昇って行くと、股《もも》の所が少し痛くなる時分に、ようやく先生の門前に出る。門と申しても、扉や屋根のある次第ではない。幅三尺足らずの黒い戸に真鍮の敲子《ノッカー》がぶら下がっているだけである。しばらく門前で休息して、この敲子の下端をこつこつと戸板へぶつけると、内から開けてくれる。Учителят Крейг, подобно на лястовичка, е свил гнезденцето си горе на четвъртия етаж. И застанал на крайчеца на каменната настилка, като погледна нагоре, не се вижда дори и прозорецът. От долу тръгвам постепенно да се изкачвам и тъкмо, когато започнат да ме наболяват бедрата, най-сетне стигам пред учителската порта. Порта, макар да казвам, не е като да има покрив и разтварящи се врати. Просто една черна врата с ширина няма и метър, на която виси закачено месингово чукало. Отдъхвам за кратко пред нея и като почукам, удряйки долния край на въпросното чукало в вратата, отвътре ми отварят.
(夏目漱石「クレイグ先生」『永日小品』1909、冒頭)
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