K(ケー)
17/02/2012 19:52
用例
始めて下宿をしたのは北の高台である。赤煉瓦の小じんまりした二階建が気に入ったので、割合に高い一週二磅《ポンド》の宿料を払って、裏の部屋を一間借り受けた。その時表を専領しているK氏は目下蘇格蘭《スコットランド》巡遊中で暫くは帰らないのだと主婦の説明があった。Първата ми квартира беше във високите части на север. Понрави ми се малката уютна двуетажна постройка от червени тухли и затова, заплащайки сравнително високия наем от 2 паунда на седмица, взех под наем една стая в задната част на сградата. По това време г-н К, който бе наел за себе си цялата лицева част, бе – както обясни домакинята –на пътешествие из Шотландия в момента и известно време нямаше да се прибира.
(夏目漱石「下宿」『永日小品』1909、冒頭)
天の灝気《こうき》の薄明《うすあかり》に優《やさ》しく会釈をしようとして、
命の脈が又新しく活溌《かっぱつ》に打っている。
こら。下界。お前はゆうべも職を曠《むなしゅ》うしなかった。
そしてけさ疲《つかれ》が直って、己《おれ》の足の下で息をしている。
もう快楽を以て己を取り巻きはじめる。
断えず最高の存在へと志ざして、
力強い決心を働かせているなあ。
ファウスト第二部
序曲
六月十日 K…村にて
御無沙汰をいたしました。今月の初めから僕は当地に滞在しております。前からよく僕は、こんな初夏に、一度、この高原の村に来てみたいものだと言っていましたが、やっと今度、その宿望がかなった訣《わけ》です。まだ誰も来ていないので、淋しいことはそりあ淋しいけれど、毎日、気持のよい朝夕を送っています。
(堀辰雄「美しい村」1933-34)
自分がこの下宿を出る二週間ほど前に、K君は蘇格蘭《スコットランド》から帰って来た。その時自分は主婦によってK君に紹介された。二人の日本人が倫敦の山の手の、とある小さな家に偶然落ち合って、しかも、まだ互に名乗り換した事がないので、身分も、素性も、経歴も分らない外国婦人の力を藉りて、どうか何分と頭を下げたのは、考えると今もって妙な気がする。その時この老令嬢は黒い服を着ていた。骨張って膏の脱けたような手を前へ出して、Kさん、これがNさんと云ったが、全く云い切らない先に、また一本の手を相手の方へ寄せて、Nさん、これがKさんと、公平に双方を等分に引き合せた。
(夏目漱石「過去の匂い」『永日小品』1909、冒頭)天の灝気《こうき》の薄明《うすあかり》に優《やさ》しく会釈をしようとして、
命の脈が又新しく活溌《かっぱつ》に打っている。
こら。下界。お前はゆうべも職を曠《むなしゅ》うしなかった。
そしてけさ疲《つかれ》が直って、己《おれ》の足の下で息をしている。
もう快楽を以て己を取り巻きはじめる。
断えず最高の存在へと志ざして、
力強い決心を働かせているなあ。
ファウスト第二部
序曲
六月十日 K…村にて
御無沙汰をいたしました。今月の初めから僕は当地に滞在しております。前からよく僕は、こんな初夏に、一度、この高原の村に来てみたいものだと言っていましたが、やっと今度、その宿望がかなった訣《わけ》です。まだ誰も来ていないので、淋しいことはそりあ淋しいけれど、毎日、気持のよい朝夕を送っています。
(堀辰雄「美しい村」1933-34)
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