わざと(態と) 副詞

10/01/2015 07:24

名詞「わざ(業)」+格助詞」から。]
アクセントざと]
1.
自然に或いは偶然にそうなるのではなく、意識して、また、意図的に何かをするさま。ことさら。わざわざ。故意に。
わざと負ける わざと壊す
2.
取り分け目立つさま。際立って。特に。
3.
正式であるさま。本格的であるさま。本格的に。
4.
少しばかり。ほんのちょっと。形ばかり。わざっと。
5.
事新しく行うさま。

態となし・態とならず

用例

1.
 木理《もくめ》美しき槻胴《けやきどう》にはわざと赤樫用ひたる岩畳作り長火鉢対ひて話し敵なく一人少し淋しさうに坐り居る三十前後やうに立派何日《いつ》掃ひし剃つたる痕《あと》青々と、見る覚むべき雨後とどめて翠《みどり》匂ひひトしほ床しく鼻筋つんと通り目尻キリリと上り洗ひ髪ぐるぐると酷く丸めて引裂紙《ひっさきがみ》あしらひ一本簪ぐいと留め刺した色気なしつくれど憎いほど烏黒《まっくろ》にてある髪の毛一ト《ふさ》後《おく》れ乱れて浅黒いながら渋気抜けたるかかれる趣きは、年増嫌ひでも褒めずにはおかれまじき風体わがものならば着せてやりたい好みある好色漢《しれもの》随分頼まれせぬ詮議では為《す》べきさりとは外見《みえ》捨てて堅義自慢した装《つく》り方選択《えらみ》こそ野暮ならね高が二子綿入れ繻子襟かけた着て何所《どこ》紅《べに》くさいところなく引つ掛けたねんねこばかり往時《むかし》何なりしやら疎《あら》い糸織なれどとて幾度か潜つて来たなるべし
幸田露伴五重塔」1891-92、冒頭
 御作《おさく》さん起きるが早いかまだ髪結来ないか、髪結来ないかと騒いでいる髪結昨夕《ゆうべ》たしかに頼んでおいたほかさまでございませんから、都合して是非までに上りますとの返事聞いてようやく安心して寝たくらいである柱時計見ると、もうにはしかないどうしたんだろうと、いかにも焦れったそうなので見兼ねた下女は、ちょっと見て参りましょう出て行った。御作さん及び腰なって障子取り出した鏡台を、立ちながら覗き込んで見たそうしてわざと開けて上下《うえした》とも奇麗揃った白い残らず露わしたすると時計ボンボン打ち出した。御作さんは、すぐ立ち上って間《あい》開けてどうしたんですよあなたもう過ぎです起きて下さらなくっちゃ晩くなるじゃありませんか云った。御作さん旦那聞いて起き直ったところである。御作さん見るや否やあいよ云いながら気軽に立ち上がった
夏目漱石「人間」『永日小品』1909、冒頭
数馬傍輩から、外記自分推してこのたび当らせたのだ聞くや否や即時に討死しよう決心したそれどうしても動かすこと出来ぬほど堅固な決心であった。外記ご恩報じさせると言ったということであるこのはからず聞いたのであるが実は聞くまでもない、外記薦めるにはそう言って薦めるにきまっているこう思う、数馬立ってもすわってもいられぬような気がする自分先代引立てこうむったには違いないしかし元服してからのち自分いわば大勢近習うち一人別に出色扱い受けていないには誰も浴しているご恩報じ自分に限ってしなくてはならぬというのはどういう意味言うまでもない自分殉死するはずであったのに殉死しなかったから命がけ場所やるというのである何時でも喜んで棄てるさきにしおくれた殉死代りに死のうとは思わない惜しまぬ自分なんで先代中陰果て惜しんだであろういわれないことである畢竟どれだけ入懇になった殉死するというはっきりしたない同じように勤めていた近習若侍うちに殉死沙汰ないので自分ながらえていた殉死してよいことなら自分よりもさきにするそれほどことにも見えているように思っていたそれにとうにするはず殉死せずにいた人間として極印打たれたのはかえすがえすも口惜しい自分すすぐこと出来ぬ汚れ受けたそれほど加えることあの外記でなくては出来まい。外記としてはさもあるべきことであるしかし殿様なぜそれお聴きいれになった。外記傷つけられたのは忍ぶこと出来よう殿様棄てられたのは忍ぶこと出来ない島原乗り入ろうとしたとき先代お呼び止めなされたそれ馬廻りものわざと先手加わるお止めなされたのであるこのたび当主怪我するなおっしゃるのはそれとは違う惜しいいたわれおっしゃるのであるそれなんのありがたかろう古い新たに鞭うたれるようなものであるただ一刻早く死にたい死んですすがれる汚れではない死にたい犬死でもよいから死にたい
森鷗外阿部一族」1913)
 昨日所謂彼岸中日でした吾々やうに田舎住むもの生活これから始まるといふです東京市中離れた此の武蔵野最中住んで居るから今日片寄せてある取り出してこの楽しむ為に根分しようとして居るところです実は久しいこと作つて居るのであるが二三年間思ふあつてわざと手入れしないで投げやりに作つて見た一体と云ふもの栽培法調べて見る或は菊作り秘伝書とか植木屋口伝とかいふものいろ/\とあつてなか/\面倒なものですこれほど面倒なものとすれば到底素人には作れないと思ふほどやかましいものですそして色々な秘訣守らなければ存分に立派な作られないといふことなつて居るところが昨年一昨年あらゆる菊作り法則無視して作つて見たたとへば早く根分けすること植ゑるには濃厚な肥料包含せしめなければならぬことなるべく大きなもの用ゐること五月七月九月摘まなければならぬこと日当りよくすること毎日一回乃至数回与へなければならぬことなつて肥料追加雑草除くことなどまだ/\いろ/\心得あるにも拘らず二三まるでやらなかつた根分やらず小さい植ゑた儘で取り替へせず摘まず勿論途絶え勝であつた云はゞあらゆる虐待薄遇とを与へたのだそれでもなるらしくそれ/″\出て綺麗な相当に優しい見せてくれたそれで考へて見れば栽培といつても絶対的に必須なものでもないらしい手入れすれば勿論よろしいしかし手入れ無くとも咲く植木屋などよく文人作りなどつけて売つて居るのはなどから見ればいつも少し出来過ぎて居てかへつて面白くない咲いた天然美しさより多く惹かれぬでもない
会津八一/會津八一(1881-1956)「根分しながら冒頭
2.
わざと深き御敵と聞こゆるもなし
紫式部源氏物語平安中期
ここちいと悪しうおぼえてわざといと苦しければ
藤原道綱母蜻蛉日記/かげろふ日記」10世紀後半
3.
わざとの御学問はさるものにて
紫式部源氏物語平安中期
4.
新製の羊羹と香煎、わざとお年玉のしるし
滑稽本七偏人」1857-63)
ではござりませうが、わざと一口
歌舞伎河竹黙阿弥天衣紛上野初花」1881)
5.
わざとかう立ち寄り給へること
紫式部源氏物語平安中期