食って(くって)

07/04/2014 15:38

→「くって(食って・喰って)

用例

雑煮食って書斎引き取ると、しばらくして三四人来たいずれも若いであるそのうち一人フロック着ている着なれないせいかメルトンに対して妙に遠慮する傾きあるあともの和服で、かつ不断着ままだからとんと正月らしくないこの連中フロック眺めてやあ――やあ一ツずつ云ったみんな驚いた証拠である自分一番あとで、やあ云った
夏目漱石「正月」『永日小品』1909、冒頭
早稲田移ってからだんだん瘠せて来たいっこうに小供遊ぶ気色ない当る縁側寝ている前足揃えたに、四角載せてじっと植込眺めたままいつまでも動く様子見えない小供いくらその騒いでも知らぬ顔している小供でも初めから相手しなくなったこのとても遊び仲間できない云わんばかりに、旧友他人扱いしている小供のみではない下女ただ三度食《めし》を、台所置いてやるだけそのほかには、ほとんど構いつけなかったしかもそのたいてい近所いる大きな三毛猫来て食ってしまった別に怒る様子なかった喧嘩するところ見た試しないただじっとして寝ていたしかしそのどことなく余裕《ゆとり》ない伸んびり楽々とに、日光領しているのと違って動くべきせきないために――これでは、まだ形容足りない來懶《ものう》さあるまで通り越して動かなければ淋しいが、動くなお淋しいので我慢してじっと辛抱しているように見えたその眼つきは、いつでも植込見ているが、彼れおそらく木の葉も、意識していなかったのだろう青味がかった黄色い瞳子《ひとみ》を、ぼんやり一と所《ひとところ》落ちつけているのみである彼れ家《うち》小供から存在認められぬように自分でも世の中存在判然《はっきり》と認めていなかったらしい
夏目漱石「猫の墓」『永日小品』1909、冒頭
劇烈な三面記事を、写真版して引き伸ばしたような小説を、のべつに五六読んだら全く厭になった食っていても生活難といっしょに胃の腑まで押し寄せて来そうでならない張ればせっぱ詰っていかにも苦しいそこで帽子被って空谷子《くうこくし》の行ったこの空谷子と云うのはこういうに、話しするのに都合よく出来上った哲学者みたような占者《うらないしゃ》みたような妙なである
夏目漱石「金」『永日小品』1909、冒頭
五助は人間言うように言った
おぬし畜生じゃから知らずにおるかも知れぬが、おぬしさすって下されことのある殿様は、もう亡くなり遊ばさそれでなってなされお歴々きょう切ってなさるおれ下司《げす》あるが、扶持《ごふち》を戴いてつないだお歴々変ったことはない殿様かわいがって戴いたありがたさ同じことじゃそれでおれ切って死ぬるのじゃおれ死んでしもうたおぬし今から野ら犬なるのじゃおれそれかわいそうならん殿様をしたは岫雲院で井戸飛び込んで死んだどうじゃおぬしおれ一しょ死のうとは思わんかいもし野ら犬なって生きてたい思うたこの握り飯食ってくれい死にたい思うなら食う
 こう言って見ていたが、は五助のばかり見ていて握り飯食おない
森鷗外阿部一族」1913)