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決心(けっしん)

16/10/2012 05:54

けっしん(決心)

用例

大刀《だいとう》老人亡妻三回忌までにきっと石碑立ててやろう決心したけれども痩腕《やせうで》便《たより》に、ようやく今日《こんにち》過すよりほかには、一銭貯蓄できかねてまたなったあれ命日三月八日がなと、訴えるようなして云うはあそうでしたっけ答えたぎりである。大刀老人は、とうとう先祖伝来大切な一幅売払って工面しようきめたに、どうだろう相談する恨めしいほど無雑作にそれいいでしょう賛成してくれた内務省社寺出て四十月給貰っている女房二人子供あるに、大刀老人孝養尽くすのだから骨が折れる老人いなければ大切な懸物も、とうに融通利くもの変形したはずである
夏目漱石「懸物」『永日小品』1909、冒頭)
権兵衛詰衆尋ねられて答えたところこうである貴殿それがし乱心者ように思われるであろう全くさようなわけではない弥一右衛門一生瑕瑾ない奉公いたしたればこそ故殿許し得ずに切腹しても殉死者加えられ遺族たるそれがしさえ他人さきだって位牌焼香いたすこと出来たのであるしかしそれがし不肖にして同様奉公なりがたい《かみ》にも承知見えて知行割いてどもおつかわしなされたそれがし故殿にも当主にも亡きにも一族どもにも傍輩にも面目ないかように存じているうち今日位牌焼香いたす場合なりとっさ感慨迫りいっそのこと武士棄てよう決心いたした場所柄顧みざる咎め甘んじて受ける乱心などいたさぬというのである
森鷗外阿部一族」1913)
数馬傍輩から、外記自分推してこのたび当らせたのだ聞くや否や即時に討死しよう決心したそれどうしても動かすこと出来ぬほど堅固な決心であった。外記ご恩報じさせると言ったということであるこのはからず聞いたのであるが実は聞くまでもない、外記薦めるにはそう言って薦めるにきまっているこう思う、数馬立ってもすわってもいられぬような気がする自分先代引立てこうむったには違いないしかし元服してからのち自分いわば大勢近習うち一人別に出色扱い受けていないには誰も浴しているご恩報じ自分に限ってしなくてはならぬというのはどういう意味言うまでもない自分殉死するはずであったのに殉死しなかったから命がけ場所やるというのである何時でも喜んで棄てるさきにしおくれた殉死代りに死のうとは思わない惜しまぬ自分なんで先代中陰果て惜しんだであろういわれないことである畢竟どれだけ入懇になった殉死するというはっきりしたない同じように勤めていた近習若侍うちに殉死沙汰ないので自分ながらえていた殉死してよいことなら自分よりもさきにするそれほどことにも見えているように思っていたそれにとうにするはず殉死せずにいた人間として極印打たれたのはかえすがえすも口惜しい自分すすぐこと出来ぬ汚れ受けたそれほど加えることあの外記でなくては出来まい。外記としてはさもあるべきことであるしかし殿様なぜそれお聴きいれになった。外記傷つけられたのは忍ぶこと出来よう殿様棄てられたのは忍ぶこと出来ない島原乗り入ろうとしたとき先代お呼び止めなされたそれ馬廻りものわざと先手加わるお止めなされたのであるこのたび当主怪我するなおっしゃるのはそれとは違う惜しいいたわれおっしゃるのであるそれなんのありがたかろう古い新たに鞭うたれるようなものであるただ一刻早く死にたい死んですすがれる汚れではない死にたい犬死でもよいから死にたい
森鷗外阿部一族」1913)
数馬こう思う矢も楯もたまらないそこで妻子には阿部討手仰せつけられただけ手短に言い聞かせて一人ひたすら支度急いだ殉死したたち安堵してつくという心持ちでいたのに、数馬心持ち苦痛逃れるために急ぐのである乙名徳右衛門事情察して主人同じ決心したほかには一家うち数馬心底汲み知ったものない今年二十一なる数馬ところ去年来たばかりまだらしい女房当歳女の子抱いてうろうろしているばかりである
森鷗外阿部一族」1913)
灝気《こうき》薄明《うすあかり》優《やさ》しく会釈しようとして
新しく活溌《かっぱつ》に打っている
こら下界お前ゆうべ曠《むなしゅ》うしなかった
そしてけさ疲《つかれ》直って己《おれ》している
もう快楽を以て取り巻きはじめる
断えず最高存在志ざして
力強い決心働かせているなあ
                  ファウスト第二部
序曲
六月十日 にて
 御無沙汰いたしました今月初めから当地滞在しておりますからよくこんな初夏一度この高原来てみたいものだ言っていましたやっと今度その宿望かなった訣《わけ》ですまだ誰も来ていないので淋しいことはそりあ淋しいけれど毎日気持よい朝夕送っています
堀辰雄「美しい村」1933-34、冒頭)