なんの(何の) 感動詞・副詞・連語

27/12/2014 07:54

アクセントんの]
代名詞なに」に格助詞」の付いた「なにの」の。]
1.
相手の心配などを打ち消す語。軽く否定したり受け流したりする。いいえ。いや。
何の、大丈夫だ 何の、これくらい当たり前のことです 何の、困った時はお互い様といいます 「どうだ、参ったか」「何の、何の」
2.

感動詞とする説も。]
意に介しないという気持ちを表す。
何のこれしき、負けるものか/大した傷ではない/傷のうちには入らぬ
3.
連語
3-1.
物事の実体・内容が不明であると指示する。いかなる。どういう。どのような。
これは何の花? 何の木を植えようか これに一体何の意味があるというのか 何の因果か 何の真似だ、小僧
3-2.
[否定の表現を伴って。]
3-2-1.
何程の。どれほどの。少しの。
何の役にも立たない奴だ あれほどの難しい技を、あいつは何の苦もなくやってのけた 何の遠慮がいるものか 何の苦労も知らずに育ったお坊ちゃん/お嬢様
3-2-2.
それほどの。
何の気なしに話したことが、あとで重大な結果を招いた 何のことはない、ただのやっかみだ
3-3.
反語の意を表す。
3-3-1.
強く反発・否定する気持ちを反語的に表す。何のための。どうして。
酒/生きがいなくして何の人生ぞ
3-3-2.
どのような。どうして。
3-4.
[「…のなんの」の形で。]
3-4-1.
同類の事柄をいろいろと付け加える意を表す。
主婦は炊事だの何のと忙しいのよ
3-4-2.
上に付く語を強調する意を表す。
痛いの何のって、目から火花が出た/涙が出たよ

→何のいな・何の彼《か》の・何の気なしに・何の事は無い・何のその

用例

3-1.
 あっち出るでしてまあ相場ざっとぐらいもんでしょうかねそれこっち持って来ると、一円五十するんですそれでちょうど向ういた時分でしたが、から八百ばかり注文ありました旨く行く一升以上つくんですからさっそくやりました八百拵えて自分いっしょまで持って行くと、――なに相手支那で、本国送り出すんでさあすると支那出て来て宜しい云うからもう済んだのか思うと、高さ一間あろう云う大きな持ち出してそのどんどん汲み込ませるんです。――いえ何のためにもいっこう分らなかったんで何しろ大きなですから張るんだって容易なこっちゃありませんかれこれ半日かかっちまいましたそれからするかと思って見ていると、例の俵《ひょう》ほどいてどんどん放り込むんです。――実に驚いたが、支那てえ本当に食えないもん後《あと》なってようやく気がついたんです打《ぶ》ち込むたしかな尋常に沈みますが、食っただけみんな浮いちまうんですそれ支那野郎しゃくってペケって俵《ひょう》目方から引いてしまうんだからたまりません傍《そば》見ていてはらはらしました何しろ七分通り入《い》ってんだから弱りました大変なでさあ。――食ったんですか。いまいましいからみんな打遣って来ました支那ですからやっぱり知らん顔してしておおかた本国送ったでげしょう
夏目漱石「儲口」『永日小品』1909、冒頭
3-2-1.
「なんの(何の)」3-2-1.用例
3-2-2.
それから岡田散歩出てこの通る見ぬことは殆ど無い岡田空想領分折々この闖入して来て次第に我物顔に立ち振舞うようになる自分通る待っているのだろうそれともなんの意味なく見ているので偶然自分合せることなるのだろうと云う疑問起るそこで湯帰り見たより遡ってあのから出していたことあったどうかと思って考えて見る無縁坂片側町一番騒がしい為立物師いつも綺麗に掃除してある寂しいであったと云う記念には何物無いどんな住んでいるだろう疑ったこと慥かにあるようだそれさえなんとも解決附かなかったどうしてもあのいつも障子締まっていたり降りていたりしてそのひっそりしていたようであるそうして見るとあの近頃附けて開けて自分通る待っていることなったらしい岡田とうとう判断した
森鷗外」1913)
3-3-1.
弥五兵衛以下一同もの寄り集まって評議した。権兵衛所行不埓には違いないしかし亡父弥一右衛門とにかく殉死者うち数えられているその相続人たる権兵衛でみれば賜うこと是非ない武士らしく切腹仰せつけられれば異存ないそれに何事奸盗かなんぞように白昼縛首せられたこの様子推すれば一族もの安穏には差しおかれまいたとい別に御沙汰ないにしても縛首せられたもの一族何の面目あって傍輩立ち交わって奉公しようこの上は是非およばない何事あろうとも兄弟わかれわかれなるな、弥一右衛門殿言いおかれたこのときことである一族討手引き受けてともに死ぬるほかはない一人異議称えるものなく決した
森鷗外阿部一族」1913)
何の戸外へ出すものか
泉鏡花(1873-1939)「琵琶伝」)
3-3-2.
何のかたき事か有らん
向井去来去来抄」18世紀初頭)
数馬
傍輩から、外記自分推してこのたび当らせたのだ聞くや否や即時に討死しよう決心したそれどうしても動かすこと出来ぬほど堅固な決心であった。外記ご恩報じさせると言ったということであるこのはからず聞いたのであるが実は聞くまでもない、外記薦めるにはそう言って薦めるにきまっているこう思う、数馬立ってもすわってもいられぬような気がする自分先代引立てこうむったには違いないしかし元服してからのち自分いわば大勢近習うち一人別に出色扱い受けていないには誰も浴しているご恩報じ自分に限ってしなくてはならぬというのはどういう意味言うまでもない自分殉死するはずであったのに殉死しなかったから命がけ場所やるというのである何時でも喜んで棄てるさきにしおくれた殉死代りに死のうとは思わない惜しまぬ自分なんで先代中陰果て惜しんだであろういわれないことである畢竟どれだけ入懇になった殉死するというはっきりしたない同じように勤めていた近習若侍うちに殉死沙汰ないので自分ながらえていた殉死してよいことなら自分よりもさきにするそれほどことにも見えているように思っていたそれにとうにするはず殉死せずにいた人間として極印打たれたのはかえすがえすも口惜しい自分すすぐこと出来ぬ汚れ受けたそれほど加えることあの外記でなくては出来まい。外記としてはさもあるべきことであるしかし殿様なぜそれお聴きいれになった。外記傷つけられたのは忍ぶこと出来よう殿様棄てられたのは忍ぶこと出来ない島原乗り入ろうとしたとき先代お呼び止めなされたそれ馬廻りものわざと先手加わるお止めなされたのであるこのたび当主怪我するなおっしゃるのはそれとは違う惜しいいたわれおっしゃるのであるそれなんのありがたかろう古い新たに鞭うたれるようなものであるただ一刻早く死にたい死んですすがれる汚れではない死にたい犬死でもよいから死にたい
森鷗外阿部一族」1913)