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空(そら)

01/07/2014 09:58

→「そら(空・虚)

用例

長いこと物蔭にはまだ殘つて居り村端れ一片《ひとつ》青んでゐない晴れたそことなく霞んで雪消《ゆきげ》泥濘《ぬかるみ》處々乾きかかつためいた薄ら温かく吹いてゐたそれ明治四十四月一日ことであつた
學年始業式なので、S尋常高等小學校代用教員、千早健《ちはやたけし》平生より少し早目に出勤した白墨《チヨオク》汚れた木綿紋附擦り切れた長目穿いてクリクリした三分刈帽子冠らず――帽子有つてゐなかつた。――亭乎《すらり》とした眞直にして玄關から上つて行く早出生徒毎朝控所彼方此方から驅けて來て恭しく迎へる中には態々叩頭《おじぎ》する許《ばつか》り其處待つてゐるあつたその殊に多かつた平生三倍四倍……遲刻勝な成績惡いさへ交つてゐた。健直ぐ其等心々溢れてゐる進級喜悦想うたそして何がなく曇つた
その解職願してゐた
石川啄木足跡」1909冒頭
眼が覚めたら昨夜《ゆうべ》抱いて寝た懐炉冷たくなっていた硝子戸越《ごし》に、眺めると、重い三尺ほどように見えた痛みだいぶ除《と》れたらしい思い切って起き上がると、予想よりも寒いには昨日《きのう》そのままである
夏目漱石「火鉢」『永日小品』1909冒頭
切れたから、立ち留まって仰向くと、火の粉もう通る置く澄み切って深いに、数を尽くして飛んで来ては卒然消えてしまうかと思うとすぐあとから鮮なやつが、一面吹かれながら追(おっ)かけながらちらちらしながら熾《さかん》あらわれるそうして不意消えて行くその飛んでくる方角見ると、大きな噴水集めたように一本なって隙間なく寒い染めている二三大きなある長い石段途中太い静かな夜《よ》張って土手から高く聳えているその後《うしろ》から起る黒い動かぬことさらに残して余る真赤である火元この高い土手に違《ちがい》ないもう一町ほど行って上《あが》れば現場出られる
夏目漱石「火事」『永日小品』1909、冒頭
ふとから上げて入口見ると、書斎いつの間か半分明いて広い廊下ばかり見える廊下尽きる唐《から》めいた手摺《てすり》遮られてには硝子戸立て切ってある青いからまともに落ちて来るが、軒端斜《はす》に、硝子通して縁側手前だけ明るく色づけて書斎戸口までぱっと暖かに射したしばらく照る見つめていると、陽炎《かげろう》湧いたように思い饒《ゆた》かになる
夏目漱石「行列」『永日小品』1909、冒頭
ピトロクリの真下ある十月が、眼に入る暖かい染めたに、寝たり起きたりしている十月静かな空気半途包《くる》んでじかににも落ちて来ぬと云って山向《やまむこう》逃げて行かぬないに、いつでも落ちついてじっと動かずに靄んでいるそのしだいに変って来る酸いものいつの間にか甘くなるように全体時代がつく。ピトロクリのは、この百年昔《むか》し二百かえってやすやすと寂びてしまう熟れた揃えて渡る見るその白くなり灰色なる折々薄いから地《じ》透かせて見せるいつ見ても古い心地する
夏目漱石「昔」『永日小品』1909、冒頭
ちょうど荼毘最中であった。しててい家臣たち群れに、「あれが」と言うた。境内木立ち限られて、鈍い青色ている円形井筒ように垂れかかっている葉桜に、かいて飛んでのである
森鷗外阿部一族」1913)
まもなく二張提燈うちはいった三男市太夫《いちだゆう》、四男五太夫《ごだゆう》の二人ほとんど同時に玄関来て雨具脱いで座敷通った中陰翌日からじめじめしたなって五月闇晴れずにいるのである
森鷗外阿部一族」1913)
高見権右衛門裏表人数集めて阿部屋敷裏手あった物置小屋崩させてそれにかけたない薄曇りまっすぐにのぼって遠方から見えたそれから踏み消してあとしめして引き上げた台所いた千場作兵衛、そのほか重手負ったもの家来傍輩かけて続いた時刻ちょうどであった
森鷗外阿部一族」1913)