小説家(しょうせつか)

01/09/2015 21:44

→「しょうせつか(小説家)

用例

 九月中旬というころ一日自分さる座していたことあッた今朝から小雨降りそそぎその晴れ間にはおりおり生ま煖《あたた》かな日かげ射してまことに気まぐれな空ら合いあわあわしい白ら雲空ら一面棚引くかと思うとフトまたあちこち瞬く間雲切れしてむりに押し分けたような雲間から澄みて怜悧《さか》し気《げ》に見えるごとくに朗《ほがら》かに晴れた蒼空のぞかれた自分座して四顧してそして傾けていた木の葉頭上幽《かす》かに戦《そよ》いだその聞たばかりでも季節知られたそれ春先するおもしろそうな笑うようなさざめきでもなくゆるやかなそよぎでもなく永たらしい話し声でもなくまたおどおどしたうそさぶそうなお饒舌《しゃべ》りでもなかッたただようやく聞取れる聞取れぬほどしめやかな私語であったそよ吹く忍ぶように木末伝ッた照る曇るじめつくようす間断なく移り変ッたあるいはそこありとあるすべて一時微笑したように隈なくあかみわたッてさのみ繁くないほそぼそとした思いがけず白絹めくやさしい光沢《つや》帯び地上散り布《し》いた細かな落ち葉にわかに映じてまばゆきまでに金色《こんじき》放ち頭《かしら》かきむしッたような「パアポロトニク」(類いみごとなしかも熟《つ》えすぎた葡萄めく帯びた際限なくもつれからみして目前透かして見られた
ツルゲーネフ作、二葉亭四迷訳「あひゞ」1888、冒頭
 
シャルヽ・ペロー童話赤頭巾といふ名高いあります既に御存知とは思ひます荒筋申上げます赤い頭巾かぶつてゐるので赤頭巾呼ばれてゐた可愛い少女いつもやうにお婆さん訪ねて行くお婆さん化けてゐて赤頭巾ムシャムシャ食べてしまつたといふでありますまつたくたゞそれだけであります
 
童話といふものには大概教訓モラルといふもの有るものですこの童話にはそれ全く欠けてをりますそれでその意味からアモラルであるといふこと仏蘭西では甚だ有名な童話でありさういふ引例場合屡々引合ひ出されるので知られてをります
 
童話のみではありません小説全体として見てもいつたいモラルない小説といふのがあるでせうか小説家立場としてもなにかモラルさういふもの意図なくて小説書きつゞける――さういふこと有り得ようとはちよつと想像できません
 
ところがこゝ凡そモラルといふもの有つて始めて成立つやうな童話全然モラルない作品存在するしかも三百ひきつゞいてその生命持ち多く子供多く大人生きてゐる――これ厳たる事実であります