もの(物) 名詞・接頭語

12/10/2017 05:39

1.

のある物体を初めとして、「空間」のある部分を占め、広く人間知覚思考し得る対象の一切を意味する。「こと」が時間的に生起・消滅する現象表すのに対して、「もの」はその現象を担う不変な実体を想定して用いるである。]
アクセント:もヲ・ものヲ
1-1.
1-1-1.
物体。物品。
階段や廊下に物を置かないでください 棚から物が落ちた ごつごつした物に手が触れる 山の上に光る物がある
1-1-2.

特に、経済的な価値を持った物品。商品。また、その質。品質。
高いが物はよい 安いが物は確かだ あれは、物は乏しくても、心は豊かな時代だった
1-1-3.

対象を具体的に表現せず、漠然という語。何らかの対象。何かのことがら/ものごと。
ものを思う/言う 歩きながらものを食うな 将来は何かものを書く仕事がしたい 彼はあの時黒っぽいものを着ていたような気がする ものも食べないで勉強する 呆れてものも言えない もののはずみというやつで 心配でものがのどを通らない ものの役に立たない奴だ 彼女の話し方にはどこか彼女の祖父を想わせるものがある
1-1-4.

対象を特定化せず、一般的・包括的にいう語。すべての対象。
ものは考えようだ ものには原因と結果がある
1-1-5.

ものごとの筋道。道理。理屈。
彼女はものの順序をわきまえている/ものがわかっている人だ
1-1-6.

鬼・妖怪・怨霊・悪霊など、不可思議な霊力をもつ正体のとらえにくい対象を畏怖していう語。
物に憑かれたような顔 物の怪
1-1-7.

取り上げる価値のある対象。ひとかどの存在。
そんな
ことは物ともしない そんなことは物の数に入らない 彼は到底物にならない
1-1-8.

思考や感情の対象として取り上げる事物を指す語。ものごと。
人生/幸福/恋/命/夢/愛というものははかない
1-1-9.

一度名前を言ったあとで再びそれをさす時に、名前の代わりに用いる語。それ。
ああ、この小説は一度読んだものだ
1-1-10.

[「…のもの」の形で。]
所有している物品・事物。所有物。持ち物。
自分のものには名前を書いておきなさい 人のものを勝手に使うな 会社のものを
する そのアイデアは彼のものだ
1-1-11.
学問。
1-2-1.

英語:thing ドイツ語:Ding]
1-2-1-1.

感知し得るさまざまな属性の統一的担い手としてのまとまりをもった空間的・時間的対象。狭義には、このもの・あのものと指し示し得る「机」「家」など外界に
存在する感覚的個物をいうが、広義には思考対象となり、命題の主語となり得るすべて、例えば心や価値などの非感覚的存在をも含めていう。
1-2-1-2.

人格としては関係しない
対象を「ひと」に対して「もの」という。
1-2-2.

権利の客体とされる、排他的支配が可能な外界の一部をいい、有体物と無体物とに分けられる。民法上では有体物に限られる。
1-3.

種々の語の下に付いて複合語をつくる。
1-3-1.

その分野・種類に入る品物や作品であることを表す。
歴史物 夏物 西陣物 現代物 時代物 三年物のワイン
1-3-2.

それに相当するもの、それだけの価値のあるもの、そういう事態を引き起こすような事柄であること、などの意を表す。
冷や汗物 切腹物 表彰状物 勲章物
1-3-3.

動詞連用形付いて。]
そのような動作の結果できた物品、そのような動作の
対象となる物品であることを表す
食べ物 飲み物 読み物 焼き物 塗り物 作り物
1-4.

形式名詞
他の語句を受けて、その語句の内容を
体言化する。
1-4-1.

[...
ものだ」「...ものである」などの形で。]
1-4-1-1.

普遍的な傾向を
表す
どんな人でもほめ言葉には弱いものだ 人はとかく過去を美化したがるものだ
1-4-1-2.

それが当然であるという気持ちを示す。なすべきこと。
先輩の忠告/親の言うことは聞くものだ 困ったときは助け合うものだ そんな時は何も聞かずにそっとしておいてあげるものだよ
1-4-1-3.

過去を思い出してなつかしむ。
あの喫茶店には学生時代よく行ったものだ
1-4-2.

[「...
ものだ」の形で。]
感動・詠嘆を表す。...なあ。
二人とも大きくなったものだ 悪いことはできないものだな あの問題をよく解決したものだ 故郷とはいいものだ あの人にも困ったものだ
1-4-3.

[「...ものか」「...
ものではない」などの形で。]
否定を強調する。
そんなことがあるものか 誰がそんなこと言うものか 何をするか/されるかわかったものじゃない
1-4-4.

[「...ものと思われる」「…ものと見える」などの形で。]
判断を強調する。
その生物は絶滅したものと考えられている 負けたのがよほどくやしかったものと見えて、まだ泣いている さすがにあきらめたと見えて、その後何も言ってこない
1-4-5.

[「...ものとする」の形で。]
..こととする。
甲はその責任を負うものとする
2.

接頭
形容詞形容動詞動詞に付いて。]
何とはなしに、また、どことなく、あるいはいかにも、そのような状態である、の意を表す。
物悲しいメロディ 物寂しい通り 物静かな人 物古る ものめずらしい ものすさまじい 

→縁は異なもの味なもの・自家薬籠中の物・「
というもの(という物)・人は見かけによらぬもの・故郷《ふるさと》は遠きにありて思うもの・銘の物・「もの[終助・接助]・「ものおもう(物思う)・ものか[連語]・物がある・ものかな[連語]・物が無い・ものかは[連語]・ものから[接助]・物が分かる・ものぞ[連語]・ものだから」・もので[接助]・「のともしない(物ともしない)・物ともせず・ものなら[接助]・物ならず・物にする・物になる・物に似ず・ものの[接助]・物の上手・物の序で・物の弾み・物の見事に・ものゆえ[接助]・物は言いよう・物は考えよう・物は相談・物は試し・物は使いよう・物も言いようで角が立つ・物も覚えず・「ものを[終助] ・「ものをいう(物を言う)・物を言わせる・「もん・薬籠中の物

用例

1-1-1.
「もの(物)」1-1-1.用例
1-1-1.1-1-2.
 世界史的に見る高い文化地域伝わっていく場合そういう征服侵略伴って行なわれたのがむしろ常態だろうと思いますところが日本文化征服などとは無関係に高文化からその時々さまざまいいものいただいている珍しいです世界大勢外来文化受けとるということ外来文化きらびやかなものとか思想受けとるということだけではなくそういうもの作り上げた民族なり政治集団なり直接に乗り込んできてその社会攪乱するという事態つねに結びついているですからもたらされたものどんなに魅力的な外来文化であってもいつも素直には受けとめられないつまり外来文化流入には宿命的にそのには警戒すべき条件抱き合わせなっているという一種不安感みたいなものあるのではないかしかし日本場合その歴史的条件から征服なしにしかも外国人切り離して外国思想だけ抽象化された入ってきましたからそういう警戒心恐怖感覚いっさいない日本人外来文化に対して旺盛な好奇心もちそれすぐ模倣結びつくというのはそのへん根本的な理由あるのではないかということ考えているわけです
(増田義郎(石田英一郎・上山春平・江上波夫・増田義郎「座談会日本人好奇心エネルギー源泉」『日本文化構造』1972)
 江戸きんからかわというものあって世界めぐりめぐったすえなくなってあたりすーすーする明治たち飾ったもっとも明治なるからもうたち空しかった鉄砲火薬使いどころ無くなりたち身体から射撃されるかわりに両国橋花火となって炸裂したさびついて単なる飾りとなったそしてどうせアクセサリーならもっと飾ってやろう印籠には根附《ねつけ》緒締め細工煙草入れ巾着には十五世紀イタリアルネッサンス十七世紀ヨーロッパバロック十八世紀フランスロココとをオランダ介して持ち込んだのだった
(田中優子「金唐革世界めぐる――近世流通するもの」『江戸想像力』1986、冒頭
1-1-2.
石原莞爾最終戦争」1940、冒頭
1-1-3.
「もの(物)」1-1-3.用例
1-1-5.
 政道地道である限りは、咎め帰するところ問うものない一旦変った処置あると、捌きという詮議起る当主覚えめでたく去らずに勤めている大目附に、林外記というものある小才覚あるので若殿時代お伽には相応ていたが、大体見ることにおいておよばぬところあってとかく苛察傾きたがるであった。阿部弥一右衛門は故殿許し得ずに死んだのだから殉死者と弥一右衛門とのには境界つけなくてはならぬ考えたそこで阿部俸禄分割献じた。光尚も思慮ある大名ではあったが、まだ物馴れぬときことで、弥一右衛門や嫡子権兵衛と懇意でないために思いやりなく自分手元使って馴染みある市太夫がために加増なるというところ目をつけて、外記の用いたのである
森鷗外阿部一族」1913)
1-1-8.
1-1-9.
「もの(物)」1-1-9.用例
1-1-11.
己れは此様《こん》な無学漢《わからずや》だのにお前はが出来るからね
樋口一葉たけくらべ」1895-6)
1-2-1-1.
生きとし生けるもの、伊づれか歌をよまざりける
(「古今和歌集」913)
(森山直太朗・御徒町凧作詞、森山直太朗作曲、中村太知編曲「生きとし生ける」2004)
1-2-1-2.
1-3-1.
[発表年未詳・筆者生年順]
讀み乍ら東北人たる作者西國土地書いてゐること感じた眞實即した立場から云ふ西國地方色西國人らしい情調乏しい云つていゝ默阿彌島千鳥松島千太明石島藏には大まかながらも東北人中國人との面目現はれてゐる徳富蘆花黒潮出て來る肥後人長州人にも何處となくその出生地面影見られる眞山新作人物には土佐つぼらしいところ長州人らしいところさう現はれてゐないやうである言葉佐訛り薩長土語殆んど用ひなかつたのは取つて付けたやうに所々用ひるよりも却つてサッパリしていゝのであるがそれにしても臺詞臭ひない田舍青武士一知半解理窟振り廻してあばれてゐるにしては臺詞調ひ過ぎてゐる中村吉藏井伊大老など幕末西國武士無器用な締りない臺詞どことなくあの若い下級武士らしい趣きあつたやうに思ふ
正宗白鳥(1879-1962)「文藝時評真山青果坂本龍馬」」)
1-4-1-1.
「もの(物)」1-4-1-1.用例
1-4-1-3.
「もの(物)」1-4-1-3.用例
1-4-2.
「もの(物)」1-4-2.用例
1-4-3.
 
阿部屋敷討手向う前晩なった柄本又七郎つくづく考えた阿部一族自分親しい間柄であるそれで後日咎めあろうとは思いながら女房見舞いまでやったしかしいよいよ明朝討手阿部家来るこれ逆賊征伐せられるお上同じことである御沙汰には火の用心せい手出しするな言ってある武士たるものこの場合懐手して見ていられたものではない情け情けであるおれにはせんようある考えたそこで更闌けて抜き足して後ろ口から薄暗い出て阿部家との竹垣結び縄ことごとく切っておいたそれから帰って身支度して長押かけた手槍おろし鷹の羽付いた払って明ける待っていた
森鷗外阿部一族」1913)
1-4-4.
 
オレ親方ヒダ随一名人うたわれたタクミであった夜長長者招かれたのは老病死期近づいただった親方身代りオレスイセンして
これまだ二十若者小さいガキころからオレ膝元育ち特に仕込んだわけでもないオレ工夫骨法大過なく会得しているです五十仕込んでもダメダメもの。青笠《あおがさ》古釜《ふるかま》くらべる巧者ではないかも知れぬこもった仕事します造ればツギ手仕口オレ気附かぬ工夫編みだしたこともある仏像刻めばこれ小僧訝かしく思われるほど深いイノチ現しますオレ病気ために余儀なく此奴代理差出すわけではなくて、青笠古釜競って劣るまいオレ見込んで差出すもの心得て下さるように
 
きいていてオレ呆れてただまるくせずにいられなかったほど過分言葉であった
 
オレそれまで親方ほめられたこと一度なかったもっともほめたこともない親方ではあったそれにしてもこの突然ホメ言葉オレまったく驚愕させた当のオレそれほどから多く古い弟子たち親方モウロクして途方もないこと口走ってしまったものだ云いふらしたのはあながち嫉みせいだけではなかったのである
坂口安吾夜長」1952、冒頭