喜んで(よろこんで)

26/04/2015 21:57

→「よろこんで(喜んで・慶んで・悦んで・歓んで)

用例

  ある又七郎女房言いつけてふけてから阿部屋敷見舞いやった阿部一族叛いて籠城めいたことしているから同志交通することが出来ないしかるに最初からの行きがかり知っていてみれば一族もの悪人として憎むことは出来ないましてや年来懇意にした間柄である婦女としてひそかに見舞うのはよしや後日発覚したとて申しわけ立たぬことでもあるまいという考え見舞いにはやったのである女房聞いて喜んで心尽くし取り揃えてふけておとずれたこれなかなか気丈なもし後日発覚したら自身引き受けて迷惑かけまい思ったのである
森鷗外阿部一族」1913)
  光尚
阿部討手言いつけられて、数馬喜んで詰所下がる傍輩一人ささやいた。「奸物にも取りえあるおぬし表門采配振らせるとは殿にしてはよく出来た
森鷗外阿部一族」1913)
  数馬
傍輩から、外記自分推してこのたび当らせたのだ聞くや否や即時に討死しよう決心したそれどうしても動かすこと出来ぬほど堅固な決心であった。外記ご恩報じさせると言ったということであるこのはからず聞いたのであるが実は聞くまでもない、外記薦めるにはそう言って薦めるにきまっているこう思う、数馬立ってもすわってもいられぬような気がする自分先代引立てこうむったには違いないしかし元服してからのち自分いわば大勢近習うち一人別に出色扱い受けていないには誰も浴しているご恩報じ自分に限ってしなくてはならぬというのはどういう意味言うまでもない自分殉死するはずであったのに殉死しなかったから命がけ場所やるというのである何時でも喜んで棄てるさきにしおくれた殉死代りに死のうとは思わない惜しまぬ自分なんで先代中陰果て惜しんだであろういわれないことである畢竟どれだけ入懇になった殉死するというはっきりしたない同じように勤めていた近習若侍うちに殉死沙汰ないので自分ながらえていた殉死してよいことなら自分よりもさきにするそれほどことにも見えているように思っていたそれにとうにするはず殉死せずにいた人間として極印打たれたのはかえすがえすも口惜しい自分すすぐこと出来ぬ汚れ受けたそれほど加えることあの外記でなくては出来まい。外記としてはさもあるべきことであるしかし殿様なぜそれお聴きいれになった。外記傷つけられたのは忍ぶこと出来よう殿様棄てられたのは忍ぶこと出来ない島原乗り入ろうとしたとき先代お呼び止めなされたそれ馬廻りものわざと先手加わるお止めなされたのであるこのたび当主怪我するなおっしゃるのはそれとは違う惜しいいたわれおっしゃるのであるそれなんのありがたかろう古い新たに鞭うたれるようなものであるただ一刻早く死にたい死んですすがれる汚れではない死にたい犬死でもよいから死にたい
森鷗外阿部一族」1913)
  
その頃神田明神降りた曲角鉤なり縁台出して古本曝しているあったそこで或る唐本金瓶梅見附けて亭主問うと云った負けてくれと云うと、「先刻岡田さんなら買う仰ゃいましたことわり申したのですと云う偶然工面好かったので言値買った二三立ってから岡田逢う向うからこう云い出した
ひどい切角見附けて置いた金瓶梅買ってしまったじゃないか
そうそう附けて折り合わなかった本屋云っていた欲しいなら譲って上げよう
なにから読んだ貸して貰えば好い
喜んで承諾したこんな今まで長い壁隣住まいながら交際せずにいた岡田とは往ったり来たりするようになったのである
森鷗外」1913)